当社の経鼻投与基盤技術は、
独自の粉末製剤技術と
投与デバイス技術からなる
Combination Technologyです
3D Nasal Cast Model
管理用
当社は、独自の経鼻投与技術(μco™ system;ミューコ™システム)を応用したインフルエンザワクチン経鼻製剤(開発コード:TR-Flu)の研究開発を行っております。今回、感染予防において特に重要とされる粘膜抗体sIgA抗体*1) の産生を高めることができるワクチンの研究について進展がありましたので、お知らせいたします。
当社は、まず、ヒト用のインフルエンザワクチン(注射用)を活性が損なわれないように固形化する技術を新たに開発しました。次に、この固型化したワクチン抗原を用いて、経鼻製剤TR-Fluを作製しました。これをカニクイザルに経鼻投与し、通常の皮下注射したときの抗体産生との比較検討を行いました。なお、今回のTR-Fluには、アジュバント*2) は用いませんでした。その結果、TR-Flu製剤を経鼻投与した実験群では、皮下注射した実験群と比較して、鼻粘液中のsIgA抗体価が50倍も検出されました。他方、皮下注射群では、従来通り血中IgG抗体*3) の産生が主な免疫反応であり、IgG抗体価は経鼻製剤投与群の約5倍を示しました。TR-Flu投与群で主に産生される鼻粘液中のsIgA抗体は、ウイルスが体内に侵入する前に粘膜でウイルスを排除するように働くため、感染予防においては特に重要であると報告されています(出典: Asahi Y., J. Immunol. 2002, 168:2930-2938)。一方、血中のIgG抗体は、体内に侵入したウイルスを排除することで発症を抑えるか、発症しても重症化しないように働きます。
引き続いて、製剤化が容易な液状の経鼻製剤とTR-Flu経鼻製剤との比較実験を行った結果、TR-Flu投与後の鼻粘液中sIgA抗体価と血中IgG抗体価は、いずれも液状経鼻製剤のそれらに比べて3倍以上高く検出されました。従って、TR-Fluは、液状経鼻製剤に比べて、鼻粘液中sIgA抗体及び血中IgG抗体の両方の産生を高めることが確認され、感染予防におけるTR-Fluの有用性が期待されました。
インフルエンザワクチン抗原の経鼻製剤は、注射器を使わずコストが大幅に抑制でき、また投与時の痛みもないため、自己投与が可能な投与方法としても期待されます。加えて、粘膜に生産されたsIgA抗体によりウイルスの感染そのものを防御でき、パンデミック*4) を引き起こす変異ウイルス(新型インフルエンザ)に対しても有効性が期待されています(出典:Asahi Y., J. Immunol. 2002, 168:2930-2938)。TR-Fluに応用しているμco™ systemは、当社の先行開発品であるグラニセトロン経鼻剤(開発コード:TRG)の臨床試験(フェーズII)において、既にその有効性と安全性が実証された画期的な技術です。今後、当社ではTR-Fluの研究開発にさらに注力し、製剤の最適化やヒトでの臨床試験を行う計画です。
なお、現段階では、本件の業績に与える影響は軽微です。
以上
【備考】
*1 sIgA抗体;粘膜上に存在する分秘型抗体であり、細菌・ウイルスが気道等の粘膜を介して侵入しようとする前に働く感染防御機構として重要な役割を担っている。
*2 アジュバント;ワクチン単独投与で必要な免疫反応が得られない場合に、ワクチンと共に投与することにより,抗体産生等の免疫反応を促進する物質。
*3 IgG抗体;血中に最も多い抗体であり、体内に侵入してきた細菌・ウイルスなどの感染防御機構において重要な役割を担っている。
*4 パンデミック;感染症が世界的規模で流行すること。